ピーター・リンチの手法を実践してみた ~ラクス【決算書分析】
ピーター・リンチのチェックリスト 〜実践編
取り上げる銘柄
実践編として取り上げる銘柄はマザーズ上場の株式会社ラクスです。楽楽精算という経費精算システムやデータベースシステム、メール共有管理システムなどのITクラウド事業を中心にした企業です。
2015年にマザース上場し、現在の時価総額は781億円です。
もう一度ピーター・リンチの最終チェックリストをおさらいしときましょう。
株式全般について
ピーター・リンチは個別銘柄をカテゴリー分けする必要を述べています。 あるカテゴリーの銘柄には役立つ指標が別のカテゴリーでは全く役に立たないことがあるためです。
そのカテゴリーとは低成長株、優良株、急成長株、資産株、市況関連株、業績回復株の6つですが、それぞれのカテゴリーに関する説明は別記事に譲ります。
今回とりあげるラクスは急成長株にあたると考えられます。
急成長株におけるチェック項目
- 会社に利益をもたらす商品の売上比率、利益比率
- 収益の成長率
- まだ拡大余地、成長余地があるか?
- いままでの戦略が拡大しても同様にうまくいくか?
- 収益の伸びと株価の伸びの比較
- ビジネスモデル(サブスクリプション型か?など)
- 収益があがる要因
では、まず株式全般のチェックリストから確認していきましょう
株式全般について
会社予想のPERはなんと92倍!
(2018.4.2時点でヤフーファイナンスより)
この5年間でめちゃくちゃ株価が上がっていますね
ちなみに過去PERの推移は以下のようになっています。
16/3 73倍
17/3 50倍
将来性を非常に期待されて、株が買われていることがよくわかります。
株主について
有価証券報告書を見ると、株主の状況は以下のようになっています。
大株主の多くは取締役で、彼らが73%を保有しているため、
それ以外の個人投資家が15%程度、金融機関は4.8%の株式を保有していることがわかります。
ピーター・リンチの基準である機関投資家が少ないということは達成されていそうです。
発行済株式数の推移を見る限り特に自社株買いはしていません。
続いてバランスシートを見てみます。
まず、資産面
総資産のなんと80%以上が流動資産になっています。さらに流動資産の7割、そして総資産のおよそ60%も現金および預金で構成されています。
多額のキャッシュを抱えた企業ということがわかります。
もちろん、資産的には非常に良い状態です。
続いて、負債の部をみます。
負債合計はたった80億円しかありません。
純負債の部の利益剰余金をみればわかりますように、多額の利益剰余金を抱えていることがわかります。
以上から、ラクスは少ない借入金と自己資本比率も高く、多くの内部留保を抱えている企業とわかりました。
次に、売上の伸び、利益の伸びを見ていきます。
決算説明会資料をみると、売上・利益ともに毎年順調に成長しています。
特に、クラウド事業が伸びていることが全体の伸びに寄与しています。
クラウド事業は経費精算システムの楽楽精算やメール管理ソフトのメールディーラーなどがあげられます。
では成長のドライバはなにか?なぜ利益が伸びているか
に関して、次の「急成長株のチェック項目」で見ていきたいと思います。
急成長株のチェック項目
- 会社に利益をもたらす商品の売上比率、利益比率
- 収益の成長率
- まだ拡大余地、成長余地があるか?
- いままでの戦略が拡大しても同様にうまくいくか?
- 収益の伸びと株価の伸びの比較
- ビジネスモデル(サブスクリプション型か?など)
- 収益があがる要因
まず売上の成長にもっとも寄与している「クラウド事業」にしぼって考えていきます。決算説明会資料から クラウド事業の中の売上高の推移をグラフにしてみました。
この表から以下のことがわかります。
・もっとも伸び率が大きい楽楽精算は売上高比率は小さい。半分にも満たない。
・営業利益率は20%程度を推移
残念ながら各サービスの利益率は公表されていないためわからないのですが、
2015年から2016年で楽楽精算の売上高が1.75倍、クラウド事業全体の営業利益が1.81倍になっていること、他のサービスが前年比売上は成長していないことから
楽楽精算の成長がそのままクラウド事業全体の営業利益に寄与したことがわかります。
すなわち売上比率は小さい楽楽精算というサービスですが、営業利益比率は大きいのではないかと。。
しかし、一方で2014~15、2016~17では同様に楽楽精算の売上高が前年比2倍程度に上がっているにもかかわらず、営業利益はそれほど伸びていません。
もしかすると広告宣伝費や人件費へ多額の投資をしたのかもしれません。これらの年になぜ利益の伸びが鈍ったのかはもう少ししらべる必要がありそうです。
このように考えると、規模を拡大すると多額の販管費が必要で、意外と利益が出ないサービスなのか?という印象も受けます。
<ビジネスモデル>
楽楽精算のビジネスモデルは月額一定量のユーザーから課金されるサブスクリプション型です。
そのため、解約率が低ければ毎回利益が積み上がる仕組みです。
<収益の伸びと株価の伸びの比較>
株価や純利益の伸びを見ていきます。
株式が分割されていますので、それを考慮した株価が調整後終値になります。
純利益は四半期ごとの純利益になっています。
2016年3月を基準として、2018年3Qまでの変化率をグラフにしてみます。
株価が2.5倍になっているのに対して、赤色の純利益の伸びはさほどではありません。
ただ、 まだ2018年度の4Qの業績がまだ発表されていません。2018年の2Qか3Qのペースをみても800~900程度に純利益がなると思いますが、そうなれば純利益の変化率は150%を超える水準になると思います。
おそらくそれを見越して2018年3Qでの株価が上がっていると思います。
しかし、そのペースでも純利益の上昇に比べると、現在の株価は割高と言えるでしょう。
<楽楽精算に成長する余地はあるだろうか?>
ラクスのサービスでは楽楽精算が最も成長していることがわかりました。
それでは楽楽精算はまだ成長できるんでしょうか?拡大の余地はあるんでしょうか?
楽楽精算が伸びている理由は
日本の多くの企業の経費精算が非常にアナログだから、です。
紙やエクセルで経費精算をして、非常に無駄な作業をしている企業はたくさんあります。そういった需要から、楽楽精算は成長をしていると思います。
2016年の説明会資料によると、潜在顧客となる紙やエクセルで経費精算を行っている企業は数万社あると書かれています。
これを見るとまだ拡大の余地は大きくあると思えます。
しかし、問題はこれら全ての企業に経費精算システムの需要があるわけではない、ということです。
例えば、外回りの営業マンが少ない会社は経費精算の場面が少ないので、必然的にそのようなシステムを導入するメリットはあまりないでしょう。(例えばタクシー会社など)
ほかにも、従業員のほとんどが高齢の場合、現状の紙での運用のほうがよいと考える企業はたくさんあります。
そのため、説明会で言われているような大規模な拡大余地はないかと思います。
一株あたり純資産額(BPS)は2017年3月の時点で129円です。
ラクスは先程見た所に非常にキャッシュリッチな企業です。そのため、純資産の大部分が価値になると考えられるため、株価からBPSを引いて考える必要があります。そうすると100を超えるPERも意外と小さくなる可能性もあります。
しかし、株価が1000円を超えるラクスではBPSが株価の10分の1程度ですので、あまり考慮しなくてもいいでしょう
まとめ
ラクスの決算書をピーター・リンチのチェックリストをもとに分析しました。
ラクスは非常にキャッシュリッチで財務基盤が安定しており、楽楽精算というクラウド型のサービスが成長している。それにより将来に大きな期待が持たれている。しかし、成長に対して現在の株価は割高である
ということがわかりました。
あとは純利益が将来にわたって増えるのか減るのかというストーリーをつくれば、この銘柄を買うべきかという判断を下すことができます。
例えば、純利益が◯%で成長するということが予測できれば
「将来5年に渡り純利益が◯%で成長するとすると、5年後には純利益が◯になり、現在のPERの値をそれにかければ5年後の株価が◯円になるだろう。すなわち今の価格で買っても大丈夫だろう」
ということを論理を展開することができます。
あとは同業他社のPERもみて比較をすべきではありました。
それにしてもラクスのPERは高すぎだとは思いますが、、、